【感想】りゅうおうのおしごと!5(著:白鳥士郎)
己の将棋観を失う八一。『神』との戦いの果てに見出すものは――
4巻感想はこちらから
ざっくりあらすじ
『りゅうおうのおしごと!5』は、史上最年少竜王『九頭竜八一』と永世七冠に王手をかけた『名人』が繰り広げる、竜王戦の物語である。
「彼は今、将棋というゲームの結論を出そうとしています。数多の天才達が千四百年かかっても辿り着けなかった、超高度に発達した科学の力を駆使しても導き出せなかった、究極の問い――『互いに最善手を指し続けたら、先手と後手のどちらが勝つのか?』その答えを」
感想1:悶え苦しむ八一を応援したくなる、人vs神の決戦。
この巻は全体を通して名人との戦いが描かれる。
竜王戦はいわゆる四先ルール(先に四勝した側が勝者)である。その最初の対局場所はハワイ。陽気なアロハ、あいちゃんの誕生日、桂香さんのムームー姿に銀子とのイチャイチャ……と、心ウキウキな八一。
だが、絶望は『封じ手(説明は省略。本文を読まれたし)』後にやってきた。
名人が指した手は、読んでいながらも自分にとっては都合がよすぎると否定していた手だったのだ。
改めて後の展開に向き合う八一だが、豊富な駒をもってしても敵陣を崩せない現実に直面する。
第一局を落とした八一は、精神的窮地に立たされる。
手を読めずに負けたのではない。読んでいながらも否定した手で負けた。誰よりも研究してきたと自負する戦法を否定されたことで、八一は全てを失ったに等しい絶望へと追いやられるのだ。
そんな精神状態のまま続く第三局。『千日手(説明は以下略)』に持ち込むことで思考時間を得ようとする八一。ところが、それは『連続王手の千日手(繰り返すと反則負け)』だった。負けを逃れるために指したのが、これまた大悪手。八一はまたまた負けてしまう。
史上最年少で竜王になったがゆえ、そして、永世七冠をかけた名人との対局がゆえに周囲から向けられる悪意――
八一は自分に歩み寄ってくれるあいちゃんや姉弟子をも寄せつけなくなってしまう。
感想2:八一を戸惑わせる名人の一挙一動。自然体という盤外戦術。
第5巻が個人的に楽しめたポイント、それは名人の行動ひとつひとつを意識してしまうため、ペースが崩れていく八一である。
- 詰みを読むと手が震える
- 相手が悪手を指すと溜息をつく
- 昼食注文のタイミングで注文しない(それまでに勝負が終わるという読み?)
などなどのちょっとした行動から、八一は自分の手は正しいのかと迷いながら対局することになる。
そして、こうした部分が『りゅうおうのおしごと!』という物語の根幹に関わってくるのだな、などと勝手に思ってみたりする。この巻を読み終えた後に第1巻を振り返ると、より味わい深くなった。
感想3:それはそれとして大人ではないヒロインズ。
八一が落ち込んでいるときに近づいてくるヒロインズが、何してんねん、とツッコミたくなる。
あいちゃんはフォローの仕方が分かっていない様子でちょっとかわいそうだが、姉弟子は完全にタイミングが悪すぎる。
いや、姉弟子は十五歳の人付き合い下手というキャラクターだし、後々の巻も読むとあながち間違っていない行動なのかもだが、それでも空気読めていない感が辛い、というのが正直な感想である。
姉弟子に萌え悶えた後なので落差がついてしまったのも、かなり大きい。
運命の第四局はあいちゃんの故郷、『ひな鶴』での対局となるが、そこでの催しもちょっとどうなの? と思うところが大きかった(特に『地元有力者』)――が、その後のあいちゃんママとの会話はいいシーンだし、全体的に深刻にしちゃうとそれはそれで『りゅうおうのおしごと!』っぽくない、と複雑だ。
一方、お姉さんである桂香さんと、ハワイに同行しなかったために影が薄い天衣ちゃんは、すごく大人だ。マイナビ本戦中の二人が指す将棋も、この巻の好きなポイントである。
そしてさりげなく明かされる衝撃の事実!!
(訓読みを知らずに流していた私であった)
まとめ
『りゅうおうのおしごと!5』は物語の一段落になる巻だった。著者後書きによれば、ここで終わらせる予定だったとのこと。納得の大盛り上がりである。
つまり、将棋は完全なゲームではないのだよ、ふふ(覚えたてのフレーズ)。
補足:2018年1月8日よりTVアニメ放映