【感想】コップクラフト DRAGNET MIRAGE RELOADED(著: 賀東招二 絵:村田蓮爾)
元軍人の警官と異世界人の少女が奔走する社会派ファンタジードラマ!
コップクラフト DRAGNET MIRAGE RELOADED (ガガガ文庫)
- 作者: 賀東招二
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2012/12/17
- メディア: Kindle版
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あらすじ
『コップクラフト』は、異世界のゲートが開いた都市にて誘拐された妖精を救出するために、刑事ケイ・マトバと少女騎士ティラナ・エクセディリカが合同捜査する物語である。
「いろいろ複雑なんだ」
どうにかこうにか、マトバは言った。
「万民を助け、悪しきをくじく。それで済んだ時代もあったんだろうがね。いまは……まあ、えらく複雑なんだよ」
「わたしには分からない」
「みんなそうさ」
ふたつの異世界文化が融合する都市で繰り広げられるバディストーリー!
舞台は地球。
この『移民』というのが、なんと異世界人。地球の科学や文化と全く異なるファンタジーな、魔術だったり妖精だったりが存在する世界からの来訪者なのです。
主人公のケイ・マトバはサンテレサ市警察の特別風紀課に所属する刑事。相棒とともに妖精の人身売買を捜査していました。
その売人を逮捕しようとしたところ、突如として凶暴に。相棒を殺害した上、銃弾を浴びても絶命することなく、妖精を奪って逃走してしまいます。
必ず足取りを掴んで仇を討つと誓うケイ。
ところが次の日に上司から与えられた命令は、ゲートから訪れる異世界の貴族を迎えるというもの。
不満を抱きつつも従うケイは、そこで妖精救出を使命とする少女騎士ティラナ・エクセディリカと出会うのでした。
バディモノにお決まりの、でこぼこコンビによる捜査。
やがて事件は現代社会と魔術が絡むテロリズムに発展していきます。
清濁併せ呑むケイと正義感の強いティラナの衝突と和解!
潜入工作もこなす刑事ケイは、サンテレサ市の混沌とした裏社会にも協力者を持っています。蛇の道は蛇。捜査として情報屋を頼りにしますが――
一方のティラナは、誇り高い騎士です。
悪事を働く売人を見過ごすことなどできません。法律も風習も異なる来訪者は、ケイと幾度となく衝突します。
でも、ふたりにはある共通点があります。事件解決へのモチベーションです。
ケイは現代警察の知識と、過去の軍属の経験を活かし。ティラナは異世界魔術の知識を活かし。
手がかりから手がかりを掴んで真相へと迫っていくふたりは、徐々に互いへの信頼と敬意を深めていきます。
この過程がですね! とても微笑ましくてですね!
ケイの意外な同居人(ネコ)や壮絶な過去だったり、自称27歳さんなティラナのお茶目だったりが、人物の魅力を深めてくれています。
でこぼこコンビ好きな私は読みながらつい、ふたりが距離を縮めていく様子ににやついてしまいました。
真面目な話、社会的なテーマにもちらりと触れられています。ちらりと。
初版は2009年となっていましたが、このお話は現代(2019)でも問題視されている事柄に触れています。
恐らくは未来になってもあちこちで起きる衝突なのでしょう。
もちろん、こちらはフィクション。
ケイは地球人と異世界人、両者の思想や恐怖を理解しながら、事件に対してアクションを起こしていく。そういうお話でした。
まとめ
『コップクラフト』は王道刑事ドラマにして、良質なファンタジーであり、それでいて現実の社会問題も扱っている物語でした。
作者後書きも含めて、陰鬱になりすぎない、明るい展望を持てる終わらせ方でとてもほっとしました。
いやはや、結構、あっさりと残酷な描写も多いので、そういう意味でもちょっとオトナ向けなお話かな、と私は感じたり。
裏社会とオカルトが融合した怪しげな雰囲気や、細かく描写されている異世界の魔術や風習などがお好きな方にもオススメできる作品ですね!
補足:2019年夏、アニメ化しました。
【感想】ハーモニー/虐殺器官(著:伊藤計劃)
健康と幸福が管理された社会で人為的に引き起こされた世界同時多発自殺!
あらすじ
『ハーモニー』は、健康と衛生を監視するナノマシン『WatchMe』が体に組み込まれた近未来の物語。WHOに所属する螺旋監察官・霧慧トァンは、世界同時多発自殺の謎を追うにつれ、13年前に自殺したはずの親友・御冷ミァハの影を見出す。
「でも、本は重くてかさばるよ、持ち歩くには」
「うん、重くてかさばるから持ってるんだよ、霧慧さん。重くてかさばるのは、いまや反社会的行為なんだ」
まるでソプラノの喉を持つ男の子のような声で、ミァハは言った。
世界中で突如崩壊しだす健康システムと、その維持を担う監察官の追跡!
世界保健機関(WHO)から紛争地帯に派遣された霧慧(きりえ)トァン。彼女は現地民族から禁制品を受け取っていた規定違反で、日本での謹慎を申し渡されます。
久しぶりに故郷・日本へと帰ってきたトァンは、高校時代の旧友・零下堂(れいかどう)キアンと再会します。
あまりに統一された社会と、社会奉仕活動に喜びを見出しているキアンに、トァンはすれ違いを覚えます。この二人に加え、今は亡き親友・御冷(みひえ)ミァハは、健康からもたらされる幸福を監視する社会に反発し、その抵抗として自殺を図った仲なのでした。
高校生だったミァハは死に、トァンとキアンは生き延びます。
13年後の現在、レストランでヘルシーな食事を摂る二人。ミァハについて話していると、なんの前触れもなく、キアンはナイフによる自殺を実行してしまうのでした。
友人の死にショックを覚えるトァンは、しかし、すぐに世界中で同様の自殺が何千件も同時に起きたことを知ります。
トァンは現代社会にあるまじき悪知恵を働かせ、捜査に加わることに。全自殺者の死亡直前というストレスマッハな映像を見ているうちに、キアンだけが遺言めいた言葉を残していたことに気づきました。
違和感を覚え、さらに調べていくと、キアンは何者かからの通信を受けていたことが判明。しかも、その言葉遣いは――
死んだはずのミァハの面影を感じさせるものだったのです。
国家という組織から、管理組織『生府』という枠組みに変遷した社会
作中の社会はヘルシー至上主義な世界になっています。健康っていいよね! 精神衛生も保たないとね! 喧嘩なんてやめようよ、協調って大事だよ! そんな世界です。素晴らしいですね。
舞台背景から触れていきますと、この世界は、アメリカ国内で勃発した暴動が激化し、核兵器の流出とウイルスの蔓延によって崩壊しかけた世界、という設定になっています。
ナノマシン『WatchMe』の開発と、そのサーバーを運営する複数の企業によって、人々の属する組織が国の政府から医療共同体の『生府』へと変遷。
WHOはそれにともない権限を拡張し、もともと生府が遺伝子操作関係の技術に関与していないかを監視する役割だった螺旋監察局は、膨大な任務を抱える組織と化したのです。
その一構成員であるトァンは、かつてミァハに同調してシステムに反抗した人間。そして同時に、『WatchMe』を開発した科学者を父親に持つ人間でもあるのです。
調和と混沌の狭間に立つ者としてトァンは、ミァハの言葉や思想を振り返りながら、
- なぜ社会が健康システムを維持しなければならないのか
- なぜシステム外の社会に存在する娯楽を享受してはならないのか
- なぜミァハは反社会思想に魅入られ、キアンは自殺しなければならなかったのか
- そうしたことに摩擦を受ける『意識』とは何なのか
といったことなどに思案します。
トァンは主人公で、事態の一部始終を俯瞰できる人物ですが、社会システムを変えるほどの権力者ではありません。
この小説はトァンの視点を通じて何が起きたかを『読者』に知らしめる内容になっているのです。
(なぜ読者をカギ括弧で括ったかは、読んでいただけると分かると思います)
物語の登場人物が恐れるところの災厄『虐殺器官』
作中で語られる過去の混乱『大災禍(ザ・メイルストロム)』がなぜ起きたのかを知るには、伊藤計劃先生の前作、『虐殺器官』を読まれたし。
こちらのあらすじは、アメリカ情報軍の暗殺実行部隊に所属するクラヴィス・シェパード大尉が、平和だった国が急転直下、なぜか最悪の紛争地帯となる場所に必ず現れる男・ジョン・ポールを追跡するSFミリタリーとなっております。
ジョン・ポールは言語学の研究者で、虐殺の歴史を調べているうちに、虐殺の直前にメディアなどで無意識的に使われている言語パターンを発見。
逆説的に、言語パターンをメディアに潜ませることで虐殺は起こせるのではないか、というなんとも終末的な実験を行う男です。
それを追う主人公のクラヴィスは、ナノマシンで植物状態となった母の医療停止に同意したばかりで、母は生きていたのか死んでいたのか、もしも生きていたのなら自分の『言葉』が母を殺したのではないか、という疑念を抱きながら、一方で命令という他者の『言葉』でターゲットを暗殺する任務に就いています。
私が感じた『虐殺器官』は、
- 『言葉』が意識に及ぼす力や影響
- そもそも『言葉』を受ける意識とは何なのか
- どうして『言葉』は発達したのか
という思考を、クラヴィスという人物を通して考えていく物語となっています。
ジョン・ポールは虐殺の歴史や言葉の成り立ちに関心を示した人物です。
似たような共通点を、ミァハも持っているように読み取れます。
こうした二人に危機感を抱く体制側の人間が、体制の崩壊を阻止しようと動くという点でも同じです。(後者は存在をトァンしか認知していませんが)
さらにいえば、システムによって保障された『社会』の崩壊(あるいは……)を後押しするのは、そのシステムの欠陥を見抜いた人間ですが、実際に行動を起こして破壊するのは意識を刺激された人々である、という終末的な物語でもあります。
この二作に物語的な繋がりはなく、あくまでフィクションの歴史でしかありませんが、読んだ順番によっては『ハーモニー』が『虐殺器官』からの反動的な事件であり、『虐殺器官』が『ハーモニー』の過去に起きた絶望である、そんな楽しみ方ができるのではないかと思います。
ちなみに私は特に前知識もなく『虐殺器官』から『ハーモニー』の順番で読みましたので、トァンと冴木教授の会話でにやっとしました。
「あっ、これ関係あるんだ!」という楽しみもあるので、伏せておこうかと最初は思いました。
が、先述したとおり重大なネタバレでもないので、『虐殺器官』は『ハーモニー』の登場人物が恐れるものとして、ここに触れておきます。
まとめ
『ハーモニー』は人々の健康と幸福が約束された社会を成立させるために切り捨てたものを見つめ直しつつ、システムが行き着く果てを覗ける物語でした。
ストーリーそのものは、ある計画に関わる複数の組織の争い、その狭間で揺れる主人公という私の大好きなタイプで、難しい部分も含め、すごく楽しめました。
独特なHTML風タグの描写も戸惑ったのは初めのうちで、文法を把握すると非常に読みやすい、それどころか世界観の補強になる、まさに表現のスタイルだと思います。
監視社会とそれに反発する組織、パニック転落する世界、拡張現実技術、行動力溢れる女性捜査官、のどれかが好みの方にオススメしたい一作ですね!
*『虐殺器官』は2017年に、『ハーモニー』は2015年に劇場アニメ化されています。
【感想】<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム- 5.可能性を繋ぐ者達(著:海道左近 絵:タイキ)
フランクリンの計画はさらなる災いをもたらす! 激闘と決着の第一部完!
- 作者: 海道左近
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 2017/09/30
- メディア: Kindle版
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あらすじ
『インフィニット・デンドログラム 5.可能性を繋ぐ者達』は、フランクリンによって放たれたモンスターの大群から決闘都市ギデオンとそこで生きる人々を守るため、レイたちマスターが奮戦する物語である。
その背に、フィガロは問う。「君はどうするのかな?」、と。
男は、一瞬だけ中継映像を見て……背を向けたままこう答えた。
「あいつの掴んだ可能性を――繋げてやるのさ」
まだまだ続くよフランクリン・ゲーム! ついに顕現する巨大エンブリオ!
レイによって再び計画を阻止されたフランクリン。
モンスター時限装置のリモコンは破壊され、さらなる伏兵も密かに解除され、人質に取られたギデオンは無事に解放された――と思われたその矢先。
フランクリンはついに自らのエンブリオ『パンデモニウム』を呼び出すのです。
モンスターの母艦となったエンブリオから、一斉に解き放たれるフランクリン製の強化モンスター。ティアンは殺さないという誓いも破り、ギデオンを灰燼に帰すつもりです。
それでもなお諦めず、市民が避難する時間を稼ごうとするレイ。
その傍らに立つのは、絶影のマリー。いつの間にやら仇敵・超級殺しと看破され大慌てですが、心強い味方になってくれます。
さらにはルークたちマスターも駆けつけて加勢しますが、そこはやはり、絶望的な戦力差。どう足掻いても勝てっこありません。
そこへどどんと現れたのは、アルター王国討伐ランキングトップの『破壊王』!
はい、前々から示唆されていたように、あの人でした。
破壊王VS大教授の、もうひとつの超級激突が始まります。
事件後の諸々と、束の間の日常編
今回の事件をきっかけに、大勢のプレイスタイルが変化することになります。
恐らく最も影響を受けたであろう人物は、首謀者のフランクリンとその忠実な部下のユーゴー。
実は『部下』と言うのは適当ではない二人の関係性ですが、方向性は決定的に食い違ってしまいます。
クランと決別するユーゴーと、一瞬いい人オーラを見せつつもやっぱり粘着質なフランクリンの再登場が楽しみです。
(いや、フランクリンさん、いい人はいい人っぽいんですけど、やっぱり、ね)
ちなみに今巻は半分がエピローグ、その後の日常編的なお話となっておりまして、あとがきによりますと『第一部、完!』とのことでした。
レイのリアル生活の周りでめっちゃすれ違っているあの人とか、今後の登場キャラクターであろうゆる関西弁キャラとか、様々なチラ見せがあります。
リアル話ということで、レイの家族についても語られています。
この家族、ハイスペック通り越して超人に足突っ込んでる人多いですよね……。
まとめ
『インフィニット・デンドログラム 5.可能性を繋ぐ者達』は、一人のマスターだったレイがこの世界で強い存在感を示すきっかけとなった物語でした。
力を見せないまま存在を明かした超級マスターも多く登場しますので、第二部以降の展開が気になるところであります。
(読み進めるにつれふと思うことは、マリーさん、割とヒロインポジションに近いところにいて、妄想捗りますよね、なんて)
【感想】<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム- 4.フランクリンのゲーム(著:海道左近 絵:タイキ)
国家間戦争の前触れ!? 三者三様のジャイアント・キリング!
- 作者: 海道左近
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 2017/07/01
- メディア: Kindle版
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あらすじ
『インフィニット・デンドログラム 4.フランクリンのゲーム』は、敵国ドライフ皇国のマスター・ミスター・フランクリンがしかけるゲームを、自由に行動できるレイたちマスターが打破する物語である。
「この街に集結していた頼りない王国の〈マスター〉が、指咥えて街ボッコボコにされて、お姫様誘拐されたら……」
さらに笑みを深めて、フランクリンは言葉を発する。
「――もうこの国のティアンのだぁれも〈マスター〉に希望なんて抱かなくなって、抗う気力も尽きるんじゃないかなぁ?」
悪辣! ミスター・フランクリンの心へし折りゲーム!
ミスター・フランクリンはモンスター研究者で、ドライフ皇国が誇るトップランカーの『大教授』です。
そう! 1巻のチャットルームで密談を交わしていた三人の一人!
そんな彼は生産職なので、自身の戦闘力はさほど高くありません。だから、暗殺しようと思えばできるマスターです。
ところが、その性格が恐ろしく粘着質! 自分を倒したマスターをゲーム引退に追い込むまで報復し続ける、ちょっとアレなプレイヤーなのです!
(現実のMMOでこんなプレイヤーに絶対会いたくない!!)
フランクリンは、戦闘力の高いマスターが『超級激突』のイベントで集まったタイミングを狙い、隔離結界を張ってしまいます。
その上、街の至るところにモンスターが封じられた時限装置を設置。ティアンの命は狙わないように設定してあるけど、街は破壊し尽くすと宣言しました。
すなわち、マスターには無力感を与え、ティアンには失望感を与える。すっごい悪質なテロ行為を始めたのです!
なんとか結界を突破しようとするマスターたちですが。
レイは決闘に参加できない低レベルマスターなら結界を突破できることを発見。
(というより、低レベルだと結界の効果が及ばないので、決闘に参加できない)
レイとルークを筆頭に、初心者たちでフランクリンのゲームを阻止しようと決死の行動を開始します。
全編に渡って繰り広げられる純度高の異能(スキル)バトル!
気づかれることなく単身結界を抜け出していた記者、もといPK『絶影』のマリー。
昨日交流を深めた王女を救い出すため、敵地に単身向かいます。これがまたダークヒーロー感あってすごく素敵!
かくして、レイ・ルーク・マリーVSフランクリンの配下たちという構図で、なんと全編バトル展開が楽しめちゃうんです!
3巻まで読んだあたりから薄々感じ始めていたことですが、この作品、VRMMOモノというより、異能ファンタジーバトルモノという楽しみがかなり強いと思っています。
ゲームとして取得できる単純なスキルのぶつけ合いではありません。
個々のプレイヤーのバックグラウンドが反映された能力で、互いの長所・短所を読み合い、勝利を掴むという戦闘が行われるのです。
エンブリオの進化は人によってバラつきがあり、未だ解明されていないと、作中で語られています。
自己の精神構造や存在意義が反映されているのだとすれば、自己理解度をより深めた者が高位に進化できるのでは――なんてついつい想像してしまいますね。
まとめ
『インフィニット・デンドログラム 4.フランクリンのゲーム』は、高レベルマスターが主導権を握る戦いに、低レベルマスターたちが己の能力と可能性を引き出して挑む物語でした。
はてさて、フランクリンが誘拐したエリちゃんは救出されるのか、王国に勝利をもたらすことができるのか、次巻はついにお兄様出撃か!? ということで、早速読み始めたいと思います!