らのつづり。

ライトノベルを中心に、読んだ本の感想など。

【感想】ストーム・ブリング・ワールド2(著:冲方丁)

破壊と創造、嘘と真実が紡ぐ父と子の物語

ストーム・ブリング・ワールド2 (MF文庫ダ・ヴィンチ)
 

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あらすじ

ストーム・ブリング・ワールド2』は、街を支配され無力感に打ちのめされたアーティミス・フェランが、少年セプター、リェロン・エルロイの残した使い魔に導かれ、友人たちとともに立ち上がる物語である。

 

 アーティは、自分がみじめさから逃れるために今まで頑張り通してきたのだということを忽然と理解していた。それは同時に、父が抱いていた苦しみの裏返しでもあった。

 

街の民に迫る『領地』と『通行料』の脅威

 前編の記事で『カルドセプト』のゲームシステムについて軽く触れましたが、そこで書いていなかったことがいくつか。

 それは、『領地』を隣のマスに広げることで連鎖効果が発生し、『通行料』やクリーチャー(召喚モンスターのこと)の能力が跳ね上がっていく、というシステム。

 また、マスに付与されている『属性』は、一定のコストを支払うことで変換できるというシステムです。

 本作『ストーム・ブリング・ワールド2』は、舞台となる風の神殿ラーハンが王宮の騎士団に支配されてしまったところから始まります。

 騎士団は自分たちの支配を強めるため、土地の属性を変換。その負荷は、『通行料』となって街の人々やその地の自然を苦しめます

 リェロンを結果的に死なせてしまった上、自分の母も衰弱し、無力感で呆然とするアーティ

 そんな彼女に、立ち上がって戦う決断を迫ったのは、なんと、リェロンが遺した黒猫のグリ。彼女がクリーチャーであることを、アーティは初めて知るのでした。

 戦いは騎士団vsセプター候補生の学童という構図に。

 相手が子供と侮る騎士団でしたが、今まで英雄の名家に仕えてきたグリの助言、そしてアーティのカリスマ性によって、学童たちは『領地』の『連鎖』を断ち切る作戦に出ます。

 後編の好きなところは、『領地』の確保から『連鎖』の分断に至る戦いが流れるように濃く描かれているポイントです。

 待つだけでは死に向かう状況下で、子供たちが抵抗しようとあがくシチュエーションがイイですね!

 

父と子のすれ違いとその和解

 父と子。これが本作全体に流れる1つのテーマだと思います。

 アーティは父に愛してもらいたくて、強くなろうと決心します。

 ところが、自分がセプターになることを父は望んでいなかった。しかも、敵の騎士団長シャウラから、父こそが全ての黒幕『黒公爵』だと教えられ、それまでの決心が揺らいでしまいます。

 それでも、持ち前のカリスマ性でもって、他の学童たちをまとめ上げ、騎士団との戦いを指揮していくことで、英雄だった父の背を自然と追っていくのです。

 一方、リェロンは元来、争いを好まない温和な性格で、戦功を立ててきたエルロイ公国の世継ぎとしては少々問題視される少年でした。

 父、エルロイ公は渋々絵の才能を認めていたようですが、やはりセプターとして一人前になってほしい様子。

 そんな父に、リェロンは嫌悪感を覚えていましたが――公国襲撃の際、やはり父は自分のことを息子と見てくれていたことを知ります。

 結局、和解を果たせなかった父、愛する姉と死別したきり、戦いに身を投じていくリェロン。

 この2人の少女と少年が出会い、物語が始まることで、それぞれ(とりわけアーティ)は父親への理解を深めていくのです。

 そして、自己嫌悪自己犠牲の果てに、アーティは自分が持つ力に気づき、リェロンは生き延びた者として新たな創造を目にする――

 という、全2巻なのにとても壮大なファンタジーでした。

 

二人のメインキャラクターを支えるサブキャラクターたち

 表面的には『強さ』を示すも、実は『弱さ』を隠し持つアーティとリェロン。

 そんな二人のそばにいるのが、学童の友人たちや使徒の仲間たち、セプターを守護するクリーチャーです。

 妖艶な美女ながらも篤い忠誠心を持つグリ。リェロンにとっては師匠であり仲間でもあり、父や兄、友人のような存在感を持つ有翼人のゼピュロス(しかもかなりアツい設定を持ってる!)。幼女なのに使途を率いるアヅマ

 それから、カルドの影響を受けやすい巻き込まれ体質のレミ。学童として潜入したリェロンに突っかかってくるガキ大将なエンリケ(でもレミに気があったり……?)。

 それぞれが協力し合って騎士団と対決する展開は、子供(入れ知恵や加勢はあるものの)と大人の対決といった側面もあったかと。

 なので、『大人と子の和解』とは逆の要素も同時に描かれていたのかなー、なんて私は思いました。

 

まとめ

ストーム・ブリング・ワールド2』は、家族との断絶を経験したアーティとリェロンが戦いを経て、凍りついていた感情を再生する物語でした。

 実のところ、この続編も可能性としてはあったのではと思うような、明かされずじまいの秘密もあります。

 元々、全2巻だったMF文庫J版の新装版ですし、十年以上前の作品にもなりますので続きはないと思われますが……王道ファンタジーとしてもゲームノベライズとしても逸品でしたので、正直、残念です。

 かといって、物語自体が中途半端に終わるわけではなく、これはこれで綺麗な終わり方だということは間違いなし。

 ネタバレ回避のため記事には書きませんが、終盤の『再生』、指示を出そうとするリェロンと、指示を出すアーティの描写が特に好きです!

 

 なお、本作は六年前に出版された小説を改訂した新装版です。