らのつづり。

ライトノベルを中心に、読んだ本の感想など。

【感想】ストーム・ブリング・ワールド1(著:冲方丁)

決意を胸に涙を封じた少女と、故郷を滅ぼされ笑みを失った少年の出会い

ストーム・ブリング・ワールド1(MF文庫ダ・ヴィンチ)
 

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ざっくりあらすじ

ストーム・ブリング・ワールド1』は、少年魔法使いリェロン・エルライが、少女アーティミス・フェランの護衛を命じられ、神学徒として接近する物語である。

 

(前略)自分を見て、自分に触れ、自分に喋りかけてくれる父に向かって、少女は何度も強くうなずいた。

「感じる。私、感じるの。私、セプターになる。お父さんみたいになれるよ」

 少女は頬を上気させて断言した。本当にそんな力があるかどうかなど二の次だった。(後略)

 

ゲーム『カルドセプト』を原作とした小説世界

 本作は六年前に出版された小説を改訂した、新装版となっています。

  新装版の表紙等には『カルドセプト』の文字がありませんが、あらすじ、もしくは1ページ目を見れば、「あ、カルドセプトのノベライズなんだ」と気づけます。

 ちなみに私は冲方先生繋がりで手に取って、気づいたクチです。

(さらに補足すると、Xbox360カルドセプトサーガ』のシナリオ担当が冲方先生)

 ゲーム『カルドセプト』シリーズは、ドリームキャストの『カルドセプトセカンド』で遊んだ程度の知識なのですが、要はカードゲームとスゴロクゲームを組み合わせたシステムです。

 プレイヤーは、数多のカードからデッキを組み、サイコロを振ってマスを進み、止まったマスを『領地』として占領し、手札から守護モンスターを設置。レベルアップさせて、そのマスに止まったプレイヤーから『通行料』を巻き上げる。目標額に達した状態でゴールに向かう――というゲームだったはず。

 なので、小説化にあたってどこまでシステムが再現されるのかが、ひとつ、興味深いところでした。

 上記のあらすじでは『魔法使い』と表現しましたが、『カルドセプト』ではカード(というか石板)のことを『カルド』と呼び、それらを使役する魔法使いのことを『セプター』と呼びます。

ストーム・ブリング・ワールド』は、様々な陣営に所属するセプターたちの戦いが描かれた物語になります。

 

『鉄の女』アーティの謎に踏み込む『猫信者』リェロン

 騎士としてもセプターとしても高名な父を持つアーティミスアーティ)ですが、プロローグからして、才能は……という少女です。

 神殿の試験で、抜き打ちのように出された白紙のカルドから『』を見出したことで、神殿長からはセプターの才能があるかもしれないと評されます。

 使命を得て意気揚々のアーティは、父に認めてもらうため、それまで泣き虫だった自分を封じ込め、強くあろうと心がけます。

 そんな彼女に魔の手が迫るという予言を受けて、影のセプター集団『サダルメリクの使徒』から、リェロンが派遣されることに。

 実は滅んだ名家の生き残りであるリェロンは、英雄だった父と愛する姉を失い、趣味の絵に対する情熱も、笑顔も失っていました。

 常に連れているのは猫のカルド、『グリマルキン』のグリ

 寡黙で、いつも猫に話しかけている、信仰する神は『猫神』と嘘をついたことから、神学校では『猫信者』と呼ばれるように。

 全二巻のうち、一巻では、そんな不思議系転校生のリェロンと、それをなし崩し的に世話するアーティのドタバタ学校生活と影の戦いが中心のお話になっています。

 

小説で描かれる『カルドセプト』の戦い

 上にも書いてあるとおり、元がスゴロクカードゲームなので、どういう戦いになるのかを楽しみに読み進めました。

 基本的にはコストなどのゲーム的な概念のないカードバトルで、カルドの相性が重要なバトルシーンとなっています。

 ところが後半、『領地』と『通行料』が自然に関わってくる展開となって、ゲームを遊んでいた私的にはひとつの興奮ポイントになりました。

 もちろん、ゲームを遊んだことのない方が読んでも分かるように、そこまで複雑な設定にはなっていません。いうなれば、風水感のある魔法バトルファンジーなのです。

 

まとめ

ストーム・ブリング・ワールド1』はボーイ・ミーツ・ガールに、ゲームシステムを再調理した戦いが乗せられた、実に王道的なバトルファンジーでした。

 策謀の舞台に立たされてしまったアーティと、彼女を守るため犠牲となったリェロンはどうなってしまうのか。後編の感想は、次の記事で。