らのつづり。

ライトノベルを中心に、読んだ本の感想など。

【感想】ラブと貪食の黒戮呪剣〈コルドリクス〉(著:宮澤伊織)

ほんわかな会話劇、その背景にある暗いファンタジー

ざっくりあらすじ

ラブと貪食の黒戮呪剣(コルドリクス)』は、盗賊の少年『ジント』が、旅人『ティラニア』の振るう魔剣に貫かれ、中途半端に魂(心臓)を喰われた半死人になってしまう物語である。
「あのスープ……おいしかった」

 

 

感想1:魔剣コルドリクスの呪い

 物語は、盗賊団が旅人を襲う場面から始まる。旅人は杖をついた身なりのいい老人かと思いきや、フードがはだけてみれば、白い髪の美少女で――
 
 女の子のピンチ、とはならないのがこのお話である。
 旅人のティラニア・ストームブライドが手にしていたのは、杖ではなく、魔剣コルドリクス。剣が振るわれるたび、斬られた盗賊たちの体は水晶となり、粉々に砕け散っていく。
 最後の生存者となった少年のジントは恐怖から反撃するも、空しくコルドリクスに貫かれてしまう。
 と、そこでティラニアが空腹で倒れたため、ジントは九死に一生を得るのだった。心臓が半分結晶化したまま
 
 心臓を取り戻す術はないと言われるジント。それどころか、魔剣に魅入られるように、自ら貫かれようとする衝動まで芽生えるように。
 
『コルドリクス』の面白いポイントその一は、ジントがコルドリクスに執拗に狙われ続けることだ。いつ魔剣が襲いかかってくるのかと、常に緊張感があるのである。

感想2:ユルくて微笑ましいキャラクター

 ティラニアはジントより年上の少女だ。
 しっかりしているのはジントのほうで、ティラニアはというと、子犬的なキャラクターである。
 これがいざ戦いとなると、頼もしい剣士に早変わりする。
 頼もしいどころか、大半のシーンで、ジントはコルドリクスの斬撃に巻き込まれそうになって敵と一緒に逃げ惑う。二人の噛み合わなさっぷりがコミカルだ。
 
 ジントとティラニアの会話劇は非常にユルくて、思わずにやけてしまう。
 しかしながら、二人の間には大きな問題がある。
 ジントは、ティラニアが美しいと思うのはコルドリクスに命を捧げたいからではないか、と疑う。
 ティラニアは、コルドリクスは親しい者の魂を喰らう、という代償に苦悩している。
 
『コルドリクス』の面白いポイントその二は、どちらも微笑ましいキャラクターだからこそ、二人は魔剣の呪いをどう乗り越えていくのか、と気になってしまうところだ。
 
 ジントの義妹たち、ティラニアの旧知の魔術師、そして敵である盗賊や悪魔たちにも支えられて、シリアス過ぎない物語となっている。

感想3:惜しむべくは全1巻であること

 ファンタジーな設定も山盛りなのだが、残念ながら全1巻なのである。
  • 〈心臓喰らい(ハートスレイヤー)〉のコルドリクス
  • ティラニアの出自
  • 〈残魂(ハーフソウル)〉と悪魔に呼ばれたジント
  • 街道を歩き続ける魔法生物の〈巡検(ガード)〉
 何より、ジントとティラニアのいちゃいちゃをもっと見たい!!
 ……とは思うものの、これで終わりだと言われれば納得できなくもない終わりではある。
 
ラブと貪食の黒戮呪剣(コルドリクス)』は、キャラクターに萌えるライトファンタジーとして非常に楽しめた作品だった。イエ・ベハルダン・ストームブライド!