【感想】イリヤの空、UFOの夏 その2(著:秋山瑞人)
始まる学園祭、動揺する空と大人たち
ざっくりあらすじ
『イリヤの空、UFOの夏 その2』は、『浅羽直之』と『伊里野加奈』の交流と、二人を遠巻きに見つめる妹『浅羽夕子』と浅羽に気のあるクラスメイト『須藤晶穂』の葛藤が描かれた物語である。
「ちがうよ」
――浅羽、おぼえてる?
「浅羽がたすけてくれたのは、わたしだよ」
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妹とクラスメイトの視点から描かれる浅羽&伊里野
第2巻はメインの二人組ではなく、周囲の人間関係に焦点が当たっている。
前巻から続く『正しい原チャリの盗み方』のエピソードは、夕子と、水前寺や伊里野に出会ったせい(と夕子は考えている)で変わっていく兄との関係。
『十八時四十七分三十二秒』は、学園祭イベント。晶穂が浅羽を追いかけるように新聞部に入部したきっかけが語られる。
これはシリーズ全体に言えることだと思うけれど、ぽつんと呟かれるセリフが妙に印象的だ。
どちらも元々は浅羽の近くにいたはずだった。なのに、伊里野が現れてからというもの、浅羽がどんどん遠くへ離れていく。
この機微がちょっとしたセリフで表現される。
これが私が思う『イリヤの空』最大の魅力だと思う。
晶穂は浅羽や伊里野に突っかかっていく嫉妬深いキャラクターかもしれない。
浅羽からすれば、どうしてピリピリしているんだろうと思うかもしれない。
だけど、晶穂には、浅羽が突然現れた少女に心奪われていく様を見せつけられるのは、辛くて当然だろう。
この、キャラが悶々とするのに感情移入して心がむずむずする感じ、たまりません。
青春エピソードの裏で徐々に進行する不穏な気配
もちろん、『イリヤの空』の魅力は、ほろ苦い青春物語というだけではない。
伊里野が語る過去の一片、『ネバダの基地』。
学園祭の最中に飛び出るフレーズ、『二年ぶりの第一次待機』。
この物語中世界では、一体何が起きているのか? この巻まで読めばもう大体の察しはついているだろう。
まとめ
『イリヤの空、UFOの夏 その2』は、思春期の中学生たちが大人の階段を上っていく過程を覗かせてくれながらも、その世界で何かが起きているゾクゾク感を楽しませてくれる、バランスの取れた物語である。根性――っ!!
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