【感想】イリヤの空、UFOの夏 その1(著:秋山瑞人)
6月24日は、全国的に、UFOの日
ざっくりあらすじ
『イリヤの空、UFOの夏 その1』は、中学二年生新聞部の『浅羽直之』が、夏休み最後の日に謎多き少女『伊里野可奈』と出会ったことをきっかけに、陰謀渦巻く青春を送ることになる物語である。
「なめてみる?」
女の子はもう、目の前にいた。
女の子と浅羽の顔の間には、もう、銀色の球体が埋まった手首があるだけだった。
「電気の味がするよ」
どこにでもいる少年と、大人たちに守られる不器用な少女の出会い
主人公、浅羽直之(あさばなおゆき)は理容店の息子で、思春期真っ盛りで、頼りない、そしてちょっと情けない感じのする中学生である。
そんな中学生がどんな夏休みを過ごしたかといえば、
航空自衛軍の基地の裏山で、UFOの監視をしていた。
夏休み中ずっと。
……事の発端は、所属する新聞部の部長による鶴の一声であって、浅羽本人はあくまでどこにでもいる少年なのである。
夏休み最後の日、浅羽は夜の学校のプールに忍び込もうとする。
めちゃくちゃ気持ちいいぞ、と誰かが言った。
だから、自分もやろうと決めた。
山ごもりからの帰り道、学校のプールに忍び込んで泳いでやろうと浅羽直之は思った。
そこで浅羽は、先客がいることに気づく。
本作のメインヒロイン、手首に銀色の金属球をはめた女の子、伊里野可奈(いりやかな)である。
初めて泳ぐとでもいうような彼女に、浅羽は泳ぎ方を教える。
伊里野は拙い言葉遣いながら、運動神経は高かった。
動揺する(興奮する?)と鼻血を流してしまうほど体が弱いらしく、『基地の兵隊が持ち歩いているような』バッグに大量の錠剤を入れていた。
ワケありと察するも、鼻血に慌てる浅羽は気づかないのである。
錠剤の瓶の下に、9mm拳銃が入っていたことに。
中学に転入してくる伊里野と、彼女の周囲で動きを見せる大人たち
二学期最初の日、浅羽が通う中学に、伊里野が転入してくる。
親切なクラスメイトに囲まれ、異常なほど人見知りの伊里野は浅羽に助けを求めるが、浅羽は不気味さと気まずさからトイレに逃げ込んでしまう。
その後、浅羽が消えた教室で、伊里野はクラスメイトに言い放つのだった。
うるさい。あっちいけ。
孤立する伊里野のことを助けないくせに、腰抜けの浅羽は彼女が抱える謎を突き止めようとして、陰謀に足を突っ込んでいくことになる。
伊里野の周囲には奇妙な大人たちが待機している。
- 妙に馴れ馴れしく、何やら裏で動いている男『榎本』
- 夏休み前に養護教諭として赴任していた『椎名真由美』
- 榎本の指示に従う基地の兵士たち
伊里野は一体何者なのか?
と、謎はさておき、距離を縮めていく浅羽と伊里野は、傍から眺めていてとても危なっかしく、とても微笑ましい。
濃すぎるサブキャラクターたちと意味深な掛け合いの連続
とにかく濃い。とにかく特徴的。
先に挙げた榎本・椎名といった大人たちだけではない。
浅羽が所属する新聞部の部長、水前寺邦博(すいぜんじくにひろ)や、部員でお節介焼き(なぜかは察してください)の須藤晶穂(すどうあきほ)、クラスの男友達ですら、妙にテンポのいい会話を繰り広げてくれる。
特に、水前寺はエキセントリックで、『妙に有能で実年齢よりも大人びて見える超人学生』キャラとして、大きな存在感を放つ。
ちなみに私的に好きなサブキャラクターは榎本です。最後まで読んでなお。
まとめ
『イリヤの空、UFOの夏 その1』は、第一巻から中学生の青春と中学生ではどうしようもない『戦争』の両面から引きつけられる内容だった。
ラノベが好きで、かつ海外ドラマ『X-ファイル』が好きな人には、間違いなくオススメできる一作である。
2001年に発刊されながら、何度繰り返し読んでも色褪せない魅力がある小説だ。浅羽に好き嫌いがあるかもだが、それすらも『イリヤ』ワールドの一部だろう。
え、読んだことがない? ああああなんてことだ。おっくれてる――――っ!!
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*2005年にOVA化